図書履歴サービス周知不足

専門家「誠実に対応して」

2021年12月19日

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学部長会議が行われた九段北校舎。新サービスの導入が承認された。6月10日も、この校舎の3階にある第一会議室で行われた

 法政大学図書館の貸出履歴を保存する新サービスの導入は、6月10日の学部長会議で承認され、来年3月に導入予定だ。しかし学生には広く周知されていない。図書館側は「正確なサービスの内容を多くの利用者に知ってほしい」と意気込む一方、日本図書館協会の「図書館の自由委員会」委員長は「しっかり説明するなど誠実に対応してほしい」と苦言を呈した。

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学部長会議の議事録。6月10日分についても記載されている。一部黒塗り。法人文書開示請求者は「法政大学図書館の自由を守る有志」=ぼかし加工

​使いたい人だけ

  このサービスは利用者本人が希望することで初めて利用できる「オプトイン方式」だ。サービスを利用したくない人は、履歴を残すことなく本を返すことができる。プライバシー保護ガイドラインでも、貸出履歴や検索履歴などを活用するサービスを導入する場合は「オプトインにしなければならない」と定められている。

 

 4月8日の学部長会議にて、本学図書館の奥西好夫(おくにし・よしお)図書館長も「『貸出・返却履歴』サービスにおけるオプトイン方式の実施については、システムのごく一部であり、利用者が意図的に申請をすることで利用可能となるサービスであり、使いたい人は使ってくださいという趣旨」だと説明した。

 

 図書館側は「教員と学生問わず、論文やレポート作成時の引用、参考文献の確認に役立つ」とメリットを強調した。7月に掲載した「お知らせ」を見た利用者は全利用者の一部であることを踏まえ「今後実施する予定のガイダンスなどの情報発信を通じて正確なサービスの内容を多くの利用者に知ってもらい、自分にあった選択をしてほしい」と答えた。

利用は賛否分かれる

 しかしある法学部教授はこう反論する。「論文や書籍から引用するときは、どこのページから引用したかを正確に記録する必要がある。タイトルのみを記録できても、あまり意味がない」。本紙が入手した内部文書によると、主に保存される履歴情報は貸出日や返却日、資料名、配架場所など。引用したい部分のページが記録できない仕様になっている。

 

 経営学部3年は「新サービスについては知らなかったが、参考文献が保存できるため、論文を書くときに利用してみたいと思う」と答えた。キャリアデザイン学部2年も「利用してみたい。新サービスを導入していいと思う」と好感触だ。

 

 一方で社会学部3年は「読みたい本があれば、大学図書館で借りるほか『メルカリ』で買うこともある。読んだ本はスマートフォンのメモに記録しているため、サービスを利用するつもりはない」と話す。キャリアデザイン学部1年は「大学図書館の情報発信が足りなく、図書館を利用しない人は新サービスについて知らないままだと思う。ガイダンスでは新サービスのメリットだけでなくデメリットもあわせて説明してほしい」と要望した。

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法政大学図書館の公式ページに掲載されている7月19日のお知らせ『貸出・返却履歴』照会サービスを導入します。概要説明はこの1件のみ

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図書館側の説明を基に作成した、オプトイン方式と、履歴の照会・削除に関する図。なお、ライブラリーカード発行者のうち兼任講師と通信教育部生は、利用資格喪失から1年間は履歴を保持しその後破棄する。卒業生やキャンパス周辺の住民、山手線沿線私立大学コンソーシアム利用者などの学外者は利用資格喪失時に履歴を破棄する

「回答を控えます」
 自分の意思で貸出履歴を保存した人が不利益を被らないよう、図書館側はどれほどの説明や対策をほどこしてきたのか。本学図書館は「(貸出と返却履歴の)データは破棄された場合、復元は一切不可能になる」と説明している。しかし4月13日に報じたとおり「削除してもシステムログ(記録)は残る。技術的には復元が可能である」と日本図書館協会「図書館の自由委員会」委員は指摘した。

 

 この矛盾に対し、図書館側は「図書館としては本学で求められるセキュリティレベルを満たしたシステム運用を行っておりますが、セキュリティに関する内容について個別・具体的なコメントを行うこと自体がセキュリティの危険度を上げる行為になり得ますので、図書館として回答を控えさせていただきます」と回答した。ほかの質問の回答にも「システムのセキュリティ対策上、回答を差し控えさせていただきます」との文言があった。

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ガイドラインに沿っている?

 図書館側は、本サービスは日本図書館協会の「デジタルネットワーク環境における図書館利用のプライバシー保護ガイドライン」の趣旨に沿ったものだとしている。このガイドラインは、デジタル化が進んだ現代で図書館利用のプライバシーを保護する具体的な取り組みを示すため、2019年5月に日本図書館協会が定めた。

 

 同協会「図書館の自由委員会」西河内靖泰(にしごうち・やすひろ)委員長は「このガイドラインでは『利用者の質問にちゃんと答えてください』と書いてある。『セキュリティ対策上、お答えできません』と答えるのなら、ガイドラインに沿っていないことになる」と話す。

 

 問題なく運用できるのであれば、具体的にはどのようなセキュリティ対策をとるのかを説明した方が利用者は安心する。「法政大学図書館はもう少し誠実に対応してほしい」

 

ログを残す功罪

 利用者の貸出や返却などの情報を破棄してもログが残ってしまうことでデータの復元が可能になるものの、ログを残すことには必要性もあるという。同委員会の伊沢ユキエ委員は「セキュリティの関係で事故があった場合、ログがないと事故の原因をたどることができないため、具体的に年数を定めた上で残しておくことはありえる」と語る。

 

 西河内氏は「図書館側の『復元は一切不可能』という言い方は不適切であるため『可能ではあるが、そういうことはしない』と説明すればよい」と語った。その上で、「どんなに管理を厳しくしていても、人間が扱っているかぎり情報は絶対に漏れる。機械もエラーを起こすことがあるため、そのときになにが起きるかわからない」とログを残すことによる漏洩の危険性について警鐘を鳴らした。

 

問われる利用者への姿勢

 2013年頃の学部長会議では「必要と判断すれば、蔵書の閲覧履歴を警察に提出することもある」との断言があった。今年4月に開かれた法学部教授会と図書館側の話し合いでは、図書館側から「貸出履歴は漏洩しても、大きな問題にはならない」という発言があった。

 

 セキュリティ対策に万全を期すためのシステム構築も大事だが、個人情報に対する大学側や図書館側の姿勢も大切だ。伊沢氏は「最終的には利用者の個人情報を守るという態度が見えるかが問われるのではないか」と話す。西河内氏は、他大学の図書館の職員からこう言われたという。「法政大学が過去に『(必要と判断すれば閲覧履歴を)警察に出すよ』と言ったのでは『もう(警察に)出しません』と約束しないと信頼されないのでは」

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新サービスの導入に反対するオンライン署名のページ。7月30日、署名の第二次提出(最終提出)をもってこの署名活動は終了した

オンライン署名1102筆

 新サービスの導入をめぐる問題を踏まえ、6月1日には法大生4名が新サービスの導入に反対するオンライン署名を立ち上げた。最終的に1102筆の署名を7月30日に総長と図書館長へ提出した。

 

 常務理事側は、新サービスを導入する理由として「『貸出履歴の照会ができると、卒業論文やレポートの作成に役立つ』という要望が教員や学生問わず寄せられた」ことを挙げていた。しかしその声は、5月10日の法学部教授会の時点で記録に残っているものでは18年から20年の3年間で3件のみだ。

 

 図書館側はこのオンライン署名の動きについてこのように回答している。「利用者に正しい内容を知ってほしいとの思いから、サービス導入決定前の取材等をお断りして参りました。図書館が本サービスについて最初の『お知らせ』を行ったのは2021年7月19日ですが、オンライン署名は2021年6月1日に開始されており、必ずしも正確な情報に基づいていない面があります。サービスの導入に対し、様々なご意見があることは承知しておりますが、図書館が発信する正確な内容をご覧になっていただくことで、本サービスに心配な点が無いことを理解してもらえるものと思います」

 

 西河内氏は「『不正確な情報に基づいて署名運動が開始された』とあるが、先に安心させるように正確な情報を出してほしい」と要望する。「利用者が不安に思っていることを図書館が『そうではありませんよ』と一所懸命に説明すればいい。こうした態度だとむしろ不安をかき立てるのではないか」

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本学市ヶ谷キャンパスの80年館(図書館)

ガイダンス告知の遅さ

 12月20日には本サービスに関する学生向けガイダンスがオンライン会議システム「ズーム」で行われる予定だ。7月19日のお知らせではガイダンスは今秋に実施する予定だったが、法学部と図書館との調整に時間を要したためずれ込んだ。

 

 参加対象者は通教生ふくむ本学学部生、大学院生、教職員だ。

 

 ガイダンスは大きく三つに分かれる。一つ目は「図書館の自由」についてだ。法学部教員が20分ほど説明をする。「図書館の自由宣言」が出された背景、思想および良心の自由が侵害された歴史のほか、貸出履歴の保存にはリスクがともなうことも説明することとなっている。

 

 二つ目はサービス内容についてだ。図書館職員が30分程度の説明を行う。最後の三つ目は質疑応答で、同じく図書館職員が15分ほど行う。

 

 複数の法学部教授からは「ガイダンスに関心を持つ学生はあまりいないだろう」との声も漏れる。ガイダンスの開催を伝える「お知らせ」は開催のわずか11日前の12月9日に公式ページやメールにて伝えられた。この問題に関心を持つ法学部3年は「アルバイトがあるため参加できなくて残念だ。今回のガイダンスで学生に説明は行き届くのか」と疑問視した。約1週間前の告知は、参加者が少なくなる原因となるだろう。

 ある法学部教授は、今回のガイダンスのために収録したものは来春のガイダンスでも使われることもあり「学生の周知方法について特に意見はない」と答えた。ガイダンス資料をめぐる法学部と図書館との協議は穏便に進んだこともあり、大きな不満を抱いていない様子だった。

 

 一方で別の同学部教授は不満をあらわにした。サービス内容を説明する7月19日のお知らせは『重要なお知らせ』欄になく『新着』欄からさかのぼらなければ見られないようになっているからだ。「なにか隠したがっているのではと受け取られてもしょうがないし、不誠実な印象を受ける」。ガイダンスのお知らせも「重要なお知らせ」には入っていない。

 

 当日以降は、質疑応答を除いたガイダンスが後日配信され、図書館のページから見られるようにするという。オンデマンドであれば、その場で質問ができないものの、いつでも説明を見ることができる利点がある。

 

 ガイダンスに限らず、導入前からサービスの内容を学生に向けて積極的に周知することも必要だろう。導入を予定する3月に向け、利用者の多くから理解を得られるよう丁寧な対応が求められる。

(取材=宇田川創良、濱田倫誠、田谷泉、高橋克典/記事=宇田川創良)