図書館、プライバシー軽視

「漏洩しても大きな問題ない」

2021年5月22日

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本学市ヶ谷キャンパスの80年館(図書館)。

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図書館側の説明を基に作成した、オプトイン方式と、履歴の照会・削除に関する図。なお、ライブラリーカード発行者のうち兼任講師と通信教育部生は、利用資格喪失から1年間は履歴を保持しその後破棄する。卒業生やキャンパス周辺の住民、山手線沿線私立大学コンソーシアム利用者などの学外者は利用資格喪失時に履歴を破棄する。

 本学図書館は、利用者の貸出と返却の履歴を保存する新システムの導入を急いでいる。図書館側からは利用者のプライバシーを軽視した言動が目立つ。今年4月に開かれた法学部教授会と図書館側との話し合いでは、図書館側から「貸出履歴は漏洩しても大きな問題にはならない」という発言があったことが大学関係者への取材でわかった。今月27日の学部長会議で導入の可否が決まる見通しだ。

 本システムをめぐっては、本紙が3月5日に報じたとおり2013年頃に学部長会議で「必要なら履歴を警察に提出する」という発言があった。

 本格的に導入が検討され始めた18年4月では法学部を除き、他学部の教授会は「審議しましたが、特に意見等は出ませんでした」「運用開始に関して特に意見はありません」などと回答し、問題視しなかった。

法学部以外は問題視せず

 当初、図書館側は18年11月1日からの運用を目指していた。しかし希望しない限り履歴が保存される「オプトアウト方式」であることや、第三者へのデータ提供の恐れ、思想および良心の自由などが侵害されることを理由に法学部をはじめ、いくつかの教授会が反対した。その後は議論も立ち消え、計画は頓挫したかのようにみえた。

 しかし今年1月、図書館側は、希望者のみが履歴を保存できる「オプトイン方式」の変更などをくわえ、本システムの再検討を始めた。法学部内では、この方式に変えたことを評価する声もある。しかし依然として図書館側が強引に導入しようとする態度に、法学部側は不信感を募らせている。

図書館側は説明を尽くしたか

 現在、本システムの導入に反対しているのは法学部教授会のみだ。なぜなのか。他学部に話を聞くと、本システムの内容について図書館は十分に説明を尽くしたのかという疑念が浮かんできた。

 

 人間環境学部の教授は「新システムの件は少しだけ理解している。しかしその全体像は把握できていない。いずれにしても、個人の図書情報が勝手に流出しないようにしてほしい」と懸念を示した。文学部の教授は「新システムについての話を聞いたことはあるが、私は中身をよく理解しておらず、明確な意見もありません」と語った。

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「図書館の自由に関する宣言」のポスター。本学図書館にも貼られている=日本図書館協会ウェブサイトから

「漏洩しても大きな問題ない」

 本システムの導入に関して、問題点は主に五つある。

 一つ目は、貸出履歴の漏洩への懸念だ。サイバー攻撃や人為的ミスによる外部へのデータ流出の可能性は捨てきれない。

 今月、慶應義塾大学では、学生や教職員の氏名や電話番号などが不正アクセスにより約6500件が流出した事件が起きた。昨年には、約4万人以上の個人情報が不正アクセスで流出した可能性を明らかにした大学もあった。

 今年4月、法学部教授会のこうした懸念に対し、図書館側は「漏洩する可能性はないとは言い切れないが、非常に低い。また、図書の貸出履歴は、万が一漏洩しても大きな問題になるような情報ではない」と利用者のプライバシーを軽視した。

 本学図書館も入会している全国組織「公益社団法人日本図書館協会」が採択した「図書館の自由に関する宣言」には、「図書館は利用者の秘密を守る」と書かれている。この「利用者の秘密」には、誰がどんな資料を借りたかが含まれており、本学図書館の発言はこれをも軽んじていることになる。法学部の教授によれば、本システムをめぐる技術的な問題については、踏み込んだ議論がなされていないという。

データは消しても残る矛盾

 二つ目は、第三者へデータが提供される恐れがあることだ。本システムをめぐり、2013年頃の学部長会議で「必要と判断すれば、蔵書の閲覧履歴を警察に提出することもある」との断言があった。

 本学のプライバシーポリシーでは、個人情報保護法の第23条を踏まえ、必要に応じてデータを国の機関や地方公共団体などに提供することを明記している。法学部教授会は、例として「警察による学生の思想調査などの著しい不利益になりかねない」と懸念を示した。

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本学のプライバシーポリシー=本学ホームページから

 三つ目は、データは削除しても復元が可能だということだ。図書館側は「データが破棄された場合、復元は一切不可能になる」と説明している。しかし本紙が4月13日に報じたように、この説明に対して日本図書館協会「図書館の自由委員会」の委員は「情報を削除してもシステムログは残る。技術的には復元が可能」だと矛盾を指摘した。

 

利用者の需要把握の甘さ

 四つ目は、利用者の需要が正確に把握されていないことだ。常務理事側は、本システムを導入する理由として「『貸出履歴の照会ができると、卒業論文やレポートの作成に役立つ』という要望が教員や学生問わず寄せられた」ことを挙げていた。

 

 しかしそうした要望が寄せられたのは、記録に残っているもので学生2人と専任教員1人の3件のみだった。

 

 1件目は、2018年度に学生を対象とした図書館の利用者アンケートで「貸出履歴を残したい」という旨のコメントだ。2件目は、図書館のページに学部学生から「貸出履歴を見ることは可能か」という投稿があったことだ。3件目は、20年10月2日に図書館カウンターで専任教員から「貸出と返却の履歴を残るようにしてほしい」と要望があったことだ。

 

 今年4月、この3件のみだったことを踏まえ法学部教授会は「需要を正確に把握してから再提案すべき」と指摘した。現在も図書館側は、本システムに関するアンケート調査などを行っていないため、どれだけの利用者がこのシステムを希望しているのかを把握できていない。

 五つ目は、本システムを導入に外部業者が関わるリスクに対してメリットが少ないことだ。貸出履歴は外部業者が管理するサーバーに保存される。

 今年4月、法学部教授会は、本学図書館のシステムを提供する外部業者が管理するサーバーに貸出履歴を保存するのではなく、既に本学で利用可能な文献管理ツール「RefWorks」や、エクセルやテキストなどのファイルで個々の利用者がダウンロードし、活用できる方法を提案した。これらの方法は既に慶應義塾大学も採用している。

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「RefWorks」は、株式会社サンメディアが提供する文献情報を管理するツール。本学図書館の蔵書検索にある「データベース」から登録および利用ができる。本学図書館は本ツールの講習会動画を学生向けに公開している=本学図書館蔵書検索「データベース」のページから

 同月、法学部教授会は「学生は卒業とともに履歴にアクセスできなくなり不便だ。また教員は、法政大学の図書館以外の図書や論文も数多く利用するため、貸出履歴を法政大学の図書館内だけで蓄積されると利便性も低い。利用者それぞれのパソコンなどに保存できる方が便利だ」と指摘した。

 

 現在のシステムでも現時点で貸出または予約している資料をテキストファイルとして出力することができる。しかし個々の利用者が貸出履歴をダウンロードするサービスについて、図書館長は「まだ検討していない」と回答した。

法学部の指摘をスルー

 4月19日に法学部教授会から数多くの指摘を受けたものの、3日後の22日に開かれた学部長会議において、図書館側は19日以前と同内容の提案を提出した。指摘が全く反映されていないことに中野勝郎(なかの・かつろう)法学部長は遺憾の意を表したが、他学部長からは特に意見は出なかったという。

 

 図書館側は「図書館と法学部の議論は平行線をたどるため、そろそろ結論を出したい」と主張した。しかし廣瀬克哉(ひろせ・かつや)総長は、図書館側と法学部側の双方で改めて話し合い、そのうえで次回に開かれる5月13日の学部長会議で図書館側が再提出するという折衷案を示した。

 

 今月10日の法学部教授会では、法学部は図書館側の提案には反対であることを改めて確認した。同月13日の学部長会議では、図書館側は本システムの導入案の再提出を行わなかった。次回に開かれる同月27日の学部長会議で再提出される可能性がある。

 

肝心の学生が蚊帳の外

 図書館事情に詳しい教員にも話を聞いた。司書課程を担当するキャリアデザイン学部の教員は、日本図書館協会の「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」を踏まえ「貸出記録は、資料が返却されたらすみやかに消去しなければならない」のが原則とし「多くの人に『図書館の自由に関する宣言』を学んでほしい」と話した。

 同課程を担当する同学部の他教員も「『図書館の自由に関する宣言』に照らして考える必要がある」と語った。「導入の理由が卒業論文やレポートに役立てるためならば、文献管理ツール『RefWorks』をもっと周知する方が先なのでは」と疑問視した。

 

 「学生がこの問題の本質を十分に理解しているとは思えない。最も大事なことは学生にも考えてもらうことではないか。肝心の学生が蚊帳の外にいる」

強引な導入を懸念

 今年4月には、30の国立大学が、2020年度の授業料の免除を申請した学生の個人情報を外部に提供しようとしていたという報道があった。それを踏まえ法学部の教授は本システムの導入に警鐘を鳴らした。「宇都宮大学では、図書館の貸出履歴も民間に提供する個人情報の対象としていた。本当にめちゃくちゃですね」

 この報道に関して同学部の他教授も「いざというときに貸出履歴が外部に向けて使用される危険性がある」と指摘した。くわえて「法学部教授会と図書館側の意見が平行線でお互いに分かりあえていない。導入が強行されそうだ」と懸念を示した。

 

 本システムの導入の可否は、今月27日の学部長会議で決まる見通しだ。法学部教授会は、3日前の24日に教授会として反対する方針を確認し、学部長会議に臨む。導入への反対論または慎重論が法学部以外からも出てくるのかが重要になる。

 (取材=宇田川創良、高橋克典、清家冴、濱田倫誠、高橋恵美/

記事=宇田川創良)

■本システムの運用検討と法学部の懸念について3月に報じた記事

図書館、新システムの運用検討 法学部懸念示す

 

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