top of page

「図書館の自由に関する宣言」の今

【前半】「団結して自由を守る」って何?

2021年4月13日

 本学図書館は、貸出期間終了後も利用者の貸出・返却履歴を閲覧できる新システムの導入を検討している(https://www.hoseipress.com/article202104073)。履歴の保存・閲覧は希望者のみとする「オプトイン方式」が採用され、2021年度から運用が始まる見通しだ。ただ、プライバシー権の観点から、貸出期間終了後も図書館が貸出履歴を管理すること自体に是非がある。技術の進歩、利用者の要望や利便性――。図書館は利用者の秘密をどう守るのか。日本図書館協会の話を通して探る。【前半】

​​【後半】はこちらから

参照:図書館、新システムの運用検討 法学部懸念示す(本紙電子版3月5日、取材・執筆=宇田川創良)

記事のポイント図書館の自由.png

去る人を追う図書館と追わない図書館

 大学、学校、公共等の種類を問わず、図書館におけるプライバシー保護は繊細な問題だ。

 新型コロナの感染拡大対策では人との接触記録が欠かせないとされ、本学図書館に限らず、他大学図書館や公共図書館の一部でも来館記録の収集が続く。

 対して、東京都の府中市立図書館や神奈川県の鎌倉市図書館などは、ホームページなどで「来館記録は求めない」「必要な方は自分で記録を」と明示。「来館記録」をめぐって、図書館ごとで対応がわれた。

 

すべての人の知る自由を守る図書館の宣言

 図書館の活動を支える全国組織「公益社団法人日本図書館協会」は1954年に「図書館の自由に関する宣言」を採択。戦前や戦後の一時期において、図書館が国民の知る自由を妨げる役割を果たした歴史的事実の反省の上に立つ同宣言は、79年の改訂を経て現在に至る。権力や社会的圧力に左右されることなく、すべての国民に資料と施設を提供するという図書館の任務を示すものとして、今日まで受け継がれてきた。

 宣言では、図書館の任務を果たすために「図書館は資料収集の自由を有する」「図書館は資料提供の自由を有する」「図書館は利用者の秘密を守る」「図書館はすべての検閲に反対する」ことが確認され、「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る」と言い切っている。

 

利用者の秘密をどう守るか

 「利用者の秘密を守る」に関する部分には、何を読むかはプライバシーに属することであること、図書館や図書館活動の従事者は、「令状」がある場合を除いて、利用者の読書事実(読書に関する情報)や利用事実(読書以外の図書館における情報)を秘密にすることが記されている。

 しかし、1980年代以降、図書館でもコンピュータやインターネットの導入が進むと、利用者の来館記録や読書記録の保存をめぐって課題が出てきた。これに対して、同協会は84年に「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」を、2019年には「デジタルネットワーク環境における図書館利用のプライバシー保護ガイドライン」を出した。

 

 指針の背景について、同協会「図書館の自由委員会」の伊沢ユキエさんは「紙の時代なら貸出記録はすべて消すことができたが、コンピュータのシステムでは消しても何らかの形で残り、残ることを活用しようという考えもある。指針がないと歯止めがきかない」と説明する。

 同委員会の熊野清子(きよこ)さんは「少し前は資源や経費の面からログを定期的に破棄することもあったが、今は情報を大量に保持する環境が整った。技術の進歩に議論が追いつかない。我々は現状を踏まえた上で、プライバシーの保護に関するガイドラインを作る」と話す。

 

 「ガイドライン」では、情報を削除してもシステムログは残り、技術的には情報の復元が可能であることを前提に、プライバシー保護には、各図書館でのプライバシー・ポリシーの策定と利用者への公開が必要だとした。策定にあたっては、収集する個人情報と利用情報の内容や利用目的、破棄の規定などを明示することを求めた。

 

大学図書館と利用者の秘密

 公的機関ではない私立大学図書館におけるプライバシー・ポリシーにおいては、個人情報保護法に基づき個人情報の利用目的を明示することが必須となる。ただ、大学図書館では学生証と図書館利用カードが共用である場合や、大学図書館が大学の一つの機関として存在している場合があり、図書館で収集された情報が大学内の図書館外で利用される可能性もある。他方で「図書館の自由に関する宣言」では「読書事実を外部に漏らさない」と記されている。

 「外部」を巡って同委員会の山口真也さんは「大学や小中高校では、図書館の外部と内部という見方では難しい。法律上、収得した個人情報を本来の目的外に利用することは禁じられているため、大学図書館においては、外部/内部ということではなく、本来の目的以外に情報を使わないという方向でプライバシー権を守ることが大切」と考える。

 

個人情報の収集は資料管理のため

 技術の進歩で、利用者の秘密の守り方は変化したが、「利用者の秘密を守る」という前提は揺るがない。図書館協会は1984年の「基準」と2019年の「ガイドライン」のいずれにおいても、図書館における個人情報と利用情報の収集目的は「利用者の管理」ではなく「資料の管理」である点を確認している。

 山口さんは「公共物が期間内に返ってくるなどの資料管理は必要。情報を収集するのは図書館が利用者に資料を提供するためであり、利用者の満足度を高めるためということまでは、現在のガイドラインでは考えていない。ただ、現実に様々なシステムがある以上、情報をサービスに使っていくのなら、明確なポリシーが必要だということもガイドラインにある。もちろんサービスをせず『資料管理を目的とする図書館』でもいい。そこは各図書館での議論」とガイドラインを解釈する。

【後半】へ続く(取材=宇田川創良、高橋克典/記事=高橋克典)

図書館の自由ポスター=日本図書館協会HPからsengen_hagaki.jpeg

※ことば:図書館の自由に関する宣言

 1954年、日本図書館協会が第7回全国図書館大会で採択、79年改訂。日本国憲法を基にし、アメリカの「図書館の権利宣言」、ユネスコの「公共図書館宣言」などの前例も参考にした。

 採択の背景にあったのは、戦前の反省と、サンフランシスコ平和条約後の社会情勢の「逆コース」傾向や、秩父市立図書館事件(52年2月)。同事件では、図書館司書の引き出しにあった資料を警察が勝手に調査した。資料には秩父市立図書館における中島健三氏を囲む座談会の参加者の情報が記されていた。

 

 宣言の作成に向けた動きは52年ごろに始まった。図書館と政治との距離はどうあるべきかという議論が52年に『図書館雑誌』上で提起されると、図書館協会内でも議論が始まり、憲章制定の是非を問う総会決議、委員会による草案提出を経て紛糾の末に宣言を採択。

 79年の改訂では、「検閲に反対する」内にあった「利用者の秘密を守る」の項目を格上げした。改訂の背景には、図書館の普及を受けて利用者が拡大し、プライバシーの保護の強化が必要になったこと、練馬図書館テレビドラマ事件(1967)のように、フィクションにおいて図書館の読書記録が犯罪捜査に役立てられる事例が見られるようになったことなどがある。

(三苫正勝「図書館と知的自由:自由宣言50年」『図書館界』57巻4号、2005、278-285頁と日本図書館協会への取材から)

「図書館の自由に関する宣言」のポスター。

館内に貼ってある場合も=日本図書館協会ウェブサイトから

bottom of page