top of page

​未熟な若者を狙う闇バイト

​報酬にくらみ失うものとは

2023年1月6日

「高額バイト」「書類を受け取るだけ」このような宣伝文句がSNSなどで流布している。実はこれらは闇バイトの紹介文において頻出する言葉だ。闇バイトとは高額報酬が支払われると謳って若者を犯罪に加担させるもので、大学生がそれに手を染める事例は珍しくない。その実態を知るため元検察官で弁護士の高橋麻理氏に話を聞いた。

高橋さん.jpg

弁護士の高橋麻理氏=写真は本人提供

 ・組織が若者に闇バイトをさせる手口とは 

 私が検事であった頃はSNSが現在ほど普及しておらず、知り合いからの紹介といった人づてにより闇バイトに関わってします場合がほとんどでした。現在はそのような旧来からの手法に加え、金銭を求めてSNSで「高額バイト」などと検索し積極的に闇バイトにありつく場合も多いと言えます。

 SNSでの接触もあったりする一方で、若い方が地元の先輩や友達から誘われるものは現在でもあります。

・闇バイトに手を染めた罪の意識について

 闇バイトに関わった若者で、堂々と「こんな仕事をしている」と言えないという方は多いと思います。程度の差はあるかもしれませんが罪の意識があるケースが多いからです。

 その一方で闇バイトを小遣い稼ぎ程度に捉え、罪の意識が薄い傾向はあると言わざるをえません。これはなぜ若者がターゲットにされるのかということに繋がります。

 もちろん全てのものがこうであるなどとは言えませんが、一般的に社会人としての経験が少ない方は儲け話を紹介された時、「そんな上手い話があるのかな?」と疑うことが難しい傾向があります。加えて、騙す方も若者に対して積極的に「これは犯罪ではない」「全然問題ない仕事だ」と信じ込ませるために伝えます。

 このようなことも含め罪の意識を持ちにくい状況になっていると言えます。私がかつて取り調べをした被疑者の中には、「この仕事を紹介されるときに、紹介者からは違法な仕事じゃないと説明を受けました。だから違法じゃないと思っていました」と供述する人もいました。

 紹介者の説明を受け心底違法ではないと信じている人もいるかもしれませんが、自分の中のどこかで「この仕事は危険なのではないか」という警報が鳴っているのを感じつつも、どこか無理やり紹介者の説明を信じようとして足を踏み入れる方が非常に多いように感じます。

・犯罪組織はどのような若者をターゲットにするのか

 どのような若者、とは一概には言えません。組織によって異なり特に顕著なものは思いつきません。一例として聞いたことがあることは、「知り合いでお金に困っている人はいないか」などと言って募った事例です。

 アルバイトを多く掛け持ちしていたり学費の支払いで困っていたり、またギャンブルにハマったりしているような人を探し出して闇バイトを紹介することもあるのだと思います。

・闇バイトの仕事内容を合法として認識していた場合の罪の量刑について

 どこまで罪を認識できたのかはその人の責任や刑の重さを決める上で大事な要素であります。そこは難しいところですが、紹介される際に「犯罪ではない」と説明されたことで責任が免除されるような甘いものではありません。最近の逮捕事例では、闇バイトの仕事内容が一回の書類受け渡しだけで数万円ももらえる仕事だと紹介されていたものがありました。

 なぜ儲け話を紹介者自身でやらずに他人に報酬を払ってまでやらせるのか。なぜ書類の受け渡しだけで高額な報酬が得られるのか。このように闇バイトには違法だと気付く要素が散りばめられています。

 通常の感覚に照らせば危ない仕事だと勘づいたはずだというのが捜査機関の基本的なスタンスです。加えて現在闇バイトはさまざまなところでメディアの題材となっています。特殊詐欺での「受け子」「出し子」などの言葉が報道され若者が狙われると注意喚起される今日、違法ではないと思ったなどの言い訳はなかなか通用しません。

 事実関係によっては、「自分は違法だと知らなかった」と言っても刑事手続きにおいては「違法だと分かっていたはずだ。でも、お金に目が眩んで足を踏み入れたのだ」と評価されることもあると思います。ただ責任の重さを評価する際に、その若者はどこまで言葉巧みに騙されていたのかといった証拠関係により、もちろん責任の重さには影響してくると思います。

 

・闇バイトの種類や特徴とは

 隠語で表しますと特殊詐欺での「受け子」「出し子」、違法薬物などを受渡する「運び屋」、最近多いもので警察用語での強さを表す「叩き」などが挙げられます。各種闇バイトに共通する点は一番逮捕されやすい役割を担わせられるということでしょう。

 「叩き」であれば強盗の実行犯をやらされます。闇バイトで雇われる人はその犯罪の中で一番危険で逮捕リスクが高い部分をやらされます。組織は自分達では絶対いやりたくない役割を本来接点がなく何かあればすぐに見捨てることのできる若者にさせることが多いのです。

・一番逮捕リスクが高いところをやらせるところに闇バイトの残酷さがある

 本当にそうですね。組織は組織にとって重要ではない人間に実行役を担わせるわけで、闇バイトで募った人には、組織の人間の素性や所在等を教えないのが通常です。もし闇バイトの実行犯が逮捕されたとしても組織側には何の影響もありません。報酬すらもらえない場合もあります。リスクを考えると絶対に割に合わない仕事です。

 

・闇バイトで若者を利用する組織を逮捕・検挙することは可能か

 組織を管理する人間を対象にした「突き上げ調査」による解明が捜査機関の一番の目標ですが、組織には何層もの人間が介在します。連絡手段にはテレグラムなどの履歴が残らないアプリが使われるような突き上げを困難にする実態もありますので、どこまで逮捕・検挙できるのかはその事件の証拠次第と言えます。

・これまでに指示役に近い人物が捕まった事例はどれほどあるのか

 これに関しても統計などで確認したことがないのでわかりません。突き上げ操作で末端から指示役に近い人物が検挙に結びついた事例はありますが、全ての事案でそれができるわけではありません。事件の客観的証拠が少ないことや末端側は指示役のことを知らないこと、知っているとしても組織による報復を恐れ証拠となる情報を供述しないことなどが理由として挙げられます。

 組織は闇バイトとして雇う際に口止めを目的として学生証の確認など個人情報の把握をすることがほとんどです。簡単に組織上部の人物が発覚する仕組みではありません。

・闇バイトから足を洗うには

 これはとても難しいことです。私は逮捕された人が「捕まってほっとした」と述べるのを聞いたことがあります。

 その人にとっては逮捕されなければ闇バイトをやめられなかったということなのでしょう。やっとことが明るみに出ることや、闇バイトから抜けたらどのような報復を組織から受けるかという恐怖感から抜けられずにズルズルと続けてします人も多いと思われます。

 ただ恐ろしくなり自首する場合もありますし組織によっては固く拘束することまではしない場合もあります。一概に逮捕されなければ組織と関係を立てないとは言えませんが、一般論として組織は簡単に抜けられると困るので最初の身分確認を行う場合が多くあるといえるでしょう。

・闇バイトを紹介される時点で個人情報を伝えてしまうのか

​ 例で言えば、高額バイトをするには学生証のコピーが必要だと組織は説明します。最初は闇バイトの恐ろしい要素が見えない状態ですから、学生は警戒せずに個人情報を提出してしまう場合もあるのです。

・闇バイトに関する相談ダイヤルの効果とは

 法律事務所に限って言えば弁護士は守秘義務があるため相談内容を勝手に警察に通報してはいけません。その守秘義務があることを理解された上で話し合い、相談者がこれからどう動くべきかを一緒に考えるという意味では、相談窓口としては有効だと思います。

・学生に一言

 先ほどにも申し上げましたが、逮捕されるリスクが少ない、高額報酬がもらえるといったうまい話は100%ありません。「今回だけは、自分だけは、この話だけは違法でない」と思い込まないでほしいです。

 闇バイトとは犯罪の一番危険な部分を担わせられるものであり、人生で失うものに見合う対価は絶対に支払われません。もしそんな話があれば自己判断をせずに信頼出来る大人に頼ってください。

【学生の目】 

  関わると人生を狂わす闇バイトはその恐ろしさを隠して若者に接近すると知った。逮捕リスクや犯罪被害者の心情を想像すれば決して手は出すまいと思えるだろう。

​しかしお金に困り社会に対する視野が極端に狭くなった時、闇バイトのような犯罪にありつくことは珍しくない。犯罪者はそうでない自分とはこえられない壁によって隔てられるのではなく普段の自分の延長線上に存在するといえる。

​ 闇バイトを他人事と捉えないことは巻き込まれない一つの方法なのかもしれない。

(長谷川桜子) 

bottom of page