#4 建石真公子教授(憲法学者)―①

任命拒否問題「憲法と法解釈に基づく理解を」

2020年11月16日

 取材は10月19日に行われました。最新情報とのそごはご了承ください。

 法学部の建石真公子教授(憲法)は、2014年から日本学術会議の連携会員を務めている。建石教授は憲法学者の視点から、任命拒否に関する一連の議論について「憲法学説からして奇異な主張が飛び交っている」と指摘。また学術会議の必要性を訴える。

建石真公子教授=本人提供

■任命拒否と本学の田中優子総長の声明についての所感

 ―任命拒否についてどのように受け止めていますか。

 「最初に任命拒否について知ったとき、日本の政治と科学の関係が、現状、とても危険なものになるのではと感じました。両者の関係性は大変難しいものです。原子力爆弾の開発と政治との関係を想像していただくと分かります。政治が科学をどう利用するかということは、何を利用し何を排斥するかということに関わってきます」


 ―田中総長の声明についてはどうお考えですか。

 「田中総長の声明は主として、学問の自由、大学全体の研究の自由、大学に属している研究者の研究の自由というところに踏み込んでいます。大学人として大変適切なコメントだと考えております」



 ■政府の説明について

 ―今回、政府は「総合的俯瞰的活動を確保」と説明しています。

 「この言葉が入った背景を考えますと、学術会議全体の研究の在り方が総合的で俯瞰的であるべきと考えられます。つまりは学術会議の内部に様々な立場や考えの人がいて、様々な国との交流があるべきだと捉えられます。その意味では、政府が学術会議全体に要求を出すのは分かりますが、個々の研究者の任命・資質について問うことは、この基準ではできないと思います」



 ■首相に任命拒否の権限があるのか

 ―憲法65条と72条の行政権、あるいは15条の公務員の選定罷免に関する国民の権利を援用して、任命拒否を正当化する論調もあります。

 「この問題は二つに分けて考えられます。一つは憲法15条1項の話、もう一つは日本学術会議法(日学法)にある7条と17条の関係です。


 憲法の学説上、15条1項(公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である)というのは、主として選出の公務員について定めているものです。学術会議の会員は選出されない一般職公務員で、特に「日本学術会議法」の定めによるものです。ですから、そのような一般職公務員の就任を憲法15条1項に基礎づけるというのは、憲法学説としてはとても奇異に感じています。


 日学法の7条と17条の関係については、7条2項には『会員は第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する』とあり、17条は『日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする』とあります。


 ここから分かることは、推薦する基準は『優れた研究又は業績』であり、それに基づいて任命は首相がするということです。

 また、同法26条で『会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる』とあります。これを総合して考えますと、同法では、推薦も罷免も学術会議に主導権があることになります。このことは、83年当時の中曽根康弘首相の説明にもあるように、任命は形式的なものということで、法も実際の運用もそうされてきたということです」



 ■任命拒否と学問の自由

 ―学術会議の任命拒否問題について、憲法23条の学問の自由が侵害される/されたという点についてどうお考えですか。

 「学問の自由を保障している憲法は、日本国憲法のほかにドイツ憲法などがあります。日本とドイツでは、過去の科学と政府との関係性において共通点があります。それを基にすると、学問の自由とは政府の好みによって学問を選別されることから自由であるという意味です。


 学術会議という、政府に勧告する立場である学問組織に対して、これは良い、良くないと政府が選択することは、その組織の活動方向をゆがめる危険性があるという意味で、学問の自由の侵害と言えます」



 ―学術会議という組織こそ個人の学問の自由を奪うという批判があります。学問の自由はどう保障されるべきでしょうか。

 「学問の自由は自由権ですから、保障するには研究内容に国が介入することを禁止することが肝要です。

 政治や権力が介入することは、学問の発展上危険です。優れている研究かどうかは研究者が見れば、一目瞭然です。それは学問研究者に限らず、自分の能力や考え方を職業にしている人、例えば演出家や小説家、バイオリニストも同じだと思います。

 

 研究者コミュニティというのは自律が原則となる組織で、研究について互いに妙な力が働かない、批判もする、というものであって、決して誰かに権威とか特権があるわけではない。厳しいと言えば厳しいです。研究していなければ、置いて行かれてしまいます。

 学術会議は政府に対して勧告を与える機関ですから、人類の長い歴史の中で正しい方向へと政治が進んでいくために、自律したコミュニティの中で検討して勧告することがどうしても必要です」

(聞き手・高橋克典)

 たていし・ひろこ教授

 本学法学部教授。専門は憲法。修士(法学)。東京都立大学社会科学研究科(基礎法学専攻)満期退学。2004年より現職。第23・24・25(・26)期日本学術会議連携会員。
 日本学術会議での活動例としては、医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方検討委員会で「提言 我が国の医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」に関わった。
 「国際人権法学会声明」「菅首相による学術会議会員の任命拒否に対する憲法研究者有志の声明」「日本スポーツとジェンダー学会声明」などに参加している。

※掲載時の情報です

当サイトの記事・写真の無断転載を禁じます。

© Hoseipress All Rights Reserved. No reproduction without permission.