山本真鳥・経済学部教授(元会員)―①

任命拒否についての受け止め

2020年10月29日

取材は10月11日に行われました。最新情報とのそごはご了承ください。※印は法政大学新聞担当者の文責。

 経済学部の山本真鳥教授(文化人類学、経済人類学)は2005年から9年間、日本学術会議の会員を、14年から今年9月までは連携会員を務めた。会員の2期目(第21期:08~11年)には第一部の幹事も経験した。会議の内部にいた山本教授は任命拒否をどう受け止めているのか。

本学経済学部の山本真鳥教授=本人提供

 ■任命拒否と本学の田中優子総長の声明についての所感

 ―任命拒否についてどのように受け止めていますか。
 「私はアカデミズムの一角を担う立場として、また学術会議に関わってきた者として、我々の専門領域に政府が踏み込んできたというのは非常に遺憾に思います。しかも理由が不明確で、(候補者の選定過程で)学者の中で様々な意見を戦わせて選考してきているのに、この人はだめとはじいていきました。政府の介入が大きすぎます」

 ―田中総長の声明については。
 「学問の自由に対する田中先生の強いご意思で宣言を出されたかと思います。私も全く同意見です」

 

 

 ■基本的な選考過程の詳細

 ―学術会議での候補者選考過程はどうなっていますか。
 「前の期に選考委員会が立ち上がります。会員と連携会員が一定の基準の下で一人につき5人まで推薦し、学会にも候補を挙げるようお願いします。そして委員会が長大なリストを作ります。投票ではないため、指名数は関係ありません。そこから、業績だけでなく、分野や年齢、ジェンダー、地域などで偏りが生じないよういろいろなタイプの人をできるだけ網羅するとか、提言などの発言ができる方かなどを考慮して選びます。業績は本人に記入してもらいます。最終的には選考委員会で選考し、幹事会(会長、副会長と各部会の部長、副部長、幹事)の確認、総会での承認(
※1)を経て内閣府に推薦します」

※1(会員選考過程における総会での承認):山本先生によると、3年に一度、7月に総会があり、そこでリストが回覧され、承認される。なお通常は4月と10月のみ総会を開催。

 ■憲法や法律、説明責任に関する点について
 

 ―今回、政府が「総合的俯瞰的活動を確保」としている点が問題となっています。
 「総合的俯瞰的視座を確保して活動することは学術会議側が取る立場です。例えば現在の学術会議で学問的背景を基に提言や報告を出す際には、分科会や委員会で揉んで何人もの意見を集約します。さらに査読者をつけ、報告 や提言をいろいろな角度でチェック(レビュー)してもらい、修正します。その後幹事会のチェックが入ります。

 

 長いプロセスを経て、学界の中でも偏った意見であると見なされれば、提言・報告を諦めるよう言われることもあります。総合的俯瞰的というのは、いろいろな分野や立場の人がいてチェックするようになっていることを言うと私は思っています。(会議で議論に参加する前段階で)特定の分野の人を抜いていくこと自体がどうなのか。それこそ、総合的俯瞰的な視座を欠くことにならないか。政治家が恣意的に選ぶことを私は非常に問題だと思いますし、菅さんが名簿を見ていないならば、誰が抜いたのかということになります」

 ―105人の推薦枠を超えた候補者名簿を内閣府に提出することが許されるのかについても報道があります。こうした任命方式についてはどうお感じですか。
 「17年には内閣の要望で少し多めに出したと聞きましたが、その際も順位を付けて出したのではないかと想像しています。学術会議の言い分を聞いていただいたという大西隆・元会長のお話ですので。でないと政府では選びようがないはずです。政府が選べば、学術のことを考えて選んでいるのかどうか。学術会議がリストを作るのは、ベストでなくてもベター。政治家がこの人ははねてこの人は入れましょうというのは、私は全然論理的ではないと思います。いろいろな全体構造をもって、それこそ総合的俯瞰的に学術の立場から選んでいるわけですから」

 ―6人欠員となると、憲法や法律の観点での指摘もありますが、会議の活動としてはどうですか。
 「6人はすべて第一部(人文・社会科学)です。第一部で担っている様々な役割がありますが、そのしわ寄せが他の分野に来るでしょうし、拒否された分野の人たちの意見が代表できなくなる可能性があるので、その意味でダメージは大きいです」

 

 

 ―今回の件については憲法の観点から、学問の自由が侵害される/されたの指摘もありますが。
 「今回は学問の自由というのが非常に象徴的に表れていると思います。
例えば第二次安倍政権時代、軍事研究分野の研究費が従来の約30倍に増えました(
※2)。軍事研究といっても実際にはいろんな研究が可能で、一見すると軍事に関係ない分野の研究でも応募できます。この研究費の問題点は、研究の途上で防衛装備庁の評価を受けることで、研究の自由が損なわれる危険があることです。

 

 政府が研究をコントロールするという部分が少しずつですが増えていっているわけです。今回もその一環なのだろうかと思っています」

※2(軍事研究予算):防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」のこと。予算は2015年度3億円、16年度は6億円、17年度は急増して110億円。

 ―任命拒否について、日本社会や本学にどのような影響を及ぼすとお考えか。
 「学問の自由というのは一つのことだけでだめになっていくということではないと思います。全体的な政府対学術の関係で、だんだん浸食されていくことを危惧します。今回の任命拒否のほか、国立大学の予算が毎年削減されていること、基礎研究のやりくりが大変になっていること(
※3)が挙げられます。政府が学術を全体的に軽視、無視しているというのはあります。学生の授業料にも反映するかもしれません。
 

 本学には理系の学生がいる一方文系の学生が多いです。直接大きな影響はないとしても、じわじわとボディブローのように効いてくるかもしれません。本学は反政府ではないですが、政府のやっていることに批判的な先生もいらっしゃいますから、そういう意味でも、影響はあるかもしれません」

(聞き手・高橋克典)

※3(人文学・社会科学分野の軽視):2015年に文部科学省が国公立大に対して「人文社会科学系学部の組織改編や廃止」などを求めた「6・8通知」は当時話題に。

 また山本先生は、内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」(2001年設置、14年改組。国の科学技術・イノベーション政策の推進のための「司令塔」と呼ばれ、科学技術に関する政策や予算・人材の配分などについて審議する組織)の議員について「学術会議の会長が職権上入っていますが、他の有識者議員7名はすべて政府が決めており、現在、6名が理系です。残りの1名は文系ですが、科学技術政策の専門家です」とも指摘する。

 

(学術への予算):国の学術への助成金・補助金は大まかに「競争的資金」か「基盤的資金」かという点と、「学術研究(自由発想型、ボトムアップ)」か「政策課題対応型研究開発(トップダウン)」かという点の二つの軸で分類できる(日本学術振興会ウェブサイトから)。

 「競争的資金」は、資金配分者が課題を公募し、分野の専門家などが科学的・技術的な観点を中心に評価した結果、採択された課題に資金援助を行う場合の資金のこと。競争原理や成果主義と密接な関わりがある(第3期科学技術基本計画(2006~10年)などから)。

 一方「基盤的経費」とは、使途を明示せず組織や施設に配分する資金のこと。「競争的資金」に対し、近年軽視されつつある。国が国立大へ支出する予算である「運営費交付金」は基盤的経費とされるが、その内訳では近年、大学の改革具合などに応じて予算を傾斜配分する競争的資金に近い資金の割合が高まっている。この点については、教授・准教授にとっては事務仕事の増加で研究時間が減る、若手研究者の収入や身分が安定しない、短期での成果や政府の示した特定の成果が出るテーマに研究が偏るなどの問題が指摘されている。

 やまもと・まとり教授 
 本学経済学部教授。専門は文化人類学、経済人類学。博士(文学)。東京大学大学院社会学研究科(文化人類学専攻)満期退学。日本学術振興会奨励研究員を経て、1984年より本学経済学部助教授。90年より現職。2008年6月から2年間、日本文化人類学会会長、15年4月より4年間、日本オセアニア学会会長。第20・21・22期日本学術会議会員、第23・24期同連携会員。
 学術会議での活動例としては、地域研究委員会人類学分科会の委員長として2011年に「報告 アイヌ政策のあり方と国民的理解」、2014年に「報告 大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 文化人類学分野」を取りまとめた。

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