田中前総長 インタビュー

「成果も課題も、全てが大切なテーマ」

2021年4月7日

本紙は、3月に退任した田中優子前総長に書面で取材した。(文責 田谷泉)

田中優子前総長

​【紙面版の続き】

 

・法政大学憲章(自由を生き抜く実践知)、法政大学ダイバーシティ宣言について改めて伺

いたい。

1 なぜこれらを本学のブランディングとし、力を入れてきたのか

 

 「ブランディング」という言葉は、「心に刻みつける」という意味です。私が力を入れてきたのは、法政大学が実際にどのような大学であり、何を社会に約束するのかを、学内外の多くの人の心に刻みつけることでした。法政大学憲章はそのブランディング推進という行動の中の一つです。憲章イコールブランドではありません。ブランディング推進を行なってきたその過程で、法政大学を心に刻みつけるための言葉を探し、練り、その営みの中から憲章が生まれました。作っただけで終わりではありません。「自由を生き抜く実践知」は、「私にとって自由を生き抜くとはどういうことか」「私にとっての実践知は何か」を、自らに問うことで、初めて活かされます。「自由を生き抜く実践知」は標語ではなく、考えるための「場所」であり、考える「方法」です。

 ダイバーシティ推進は、長期ビジョンHOSEI2030の中の、ブランディング推進とは異なる項目として設定されています。ブランディングのために行なったわけではありません。総長になった時は、男女共同参画として考えていましたが、留学生が増え、留学する学生も増え、LGBTの認識も深まり、障がいを持った学生たちも受け入れている状況から考え、差別をなくしインクルージョンの意識も重要だったことから、「ダイバーシティ宣言」に踏み切りました。その後、2020年度は男女共同参画タスクフォースを立ち上げて、2021年度から男女共同参画推進チームが動き出す予定です。

 

 

2 昨年の取材の際には「大学そのものが学生を巻き込んでのダイバーシティ推進はまだ

できていないのが現状」としていたが、現在はどうか。3 今後の課題はあるか。

 

考えてみれば、障がい学生支援室はノートテイカー等、多くの学生スタッフの参加で成り立っています。グローバル関係でも第2回の実践知大賞を受賞した「法政グローバルデー」のように、日本人学生と留学生のジョイントで多くの行事を行なっています。学生を巻き込んでのダイバーシティ推進はずいぶん活発に行われているのです。さらに留学生については、2020年の「自由を生き抜く実践知大賞」の「大賞」を獲得したのが、「多文化教育」科目の有志32名(学生の自主活動)が行なった「コロナ禍で孤立する留学生のオンライン学習支援」でした。この「自由を生き抜く実践知大賞」によっても、ダイバーシティの推進が図れるのではないか、と思っています。また今後のこととしては、理系の女性の教員、在学生、卒業生のネットワークを作ることで、理系の女性教員を増やし、理系に進学する女性たちを増やすことを計画中です。ダイバーシティ化は終わりのない旅ですので、現に行われている学生たちの活動のなかに、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を確認し、その上で様々な事柄をダイバーシティ化に向かう契機にすることは、もっとも推進の実現性が高いと思います。

 

 

・総長としての仕事の中で最も印象に残っていることは何か。

  

 記憶や印象に残らない事柄は一つもありません。毎週の会議はルーチン・ワークのように見えますが、常に新しいテーマがあり、新たな課題や取組がありました。総長は主要な会議の議長ですので、そこに出てくる全てのことに注意を向けねばなりません。成果も課題も、全てが大切なテーマでした。

 

・コロナ禍で急速に進んだ授業のデジタル化で今後の大学の在り方はどう変わると考える

か。

 

 既に2021年度からハイブリッド型、ハイフレックス型、オンデマンド型の授業が始まっています。今後の大学の在り方は、その方法を中心にして、質保証の基準が変わって行きます。現在、文科省の中央教育審議会では、大学設置基準や質保証基準の見直しを始めています。その見直しの方向について、日本私立大学連盟は常に意見を述べています。なぜなら、学校は国の基準をもとにして設置されますので、基準が変わらないと、どんなに良いアイデアがあっても、新たな段階に入れないからです。

 私自身は、「教えることから学ぶことへ評価の視点を移す」ことがとても大切だと思っています。大学は個々の人間が「自ら学ぶ」場所です。しかし「単位」という考え方は、時間と回数で成り立っています。オンデマンド授業になったら、その時間をどう考えればいいでしょうか? 今までの授業は、場所と時間を大学側で設定し、そこに一定の回数来させる、という教える側の管理で成り立っていました。しかし例えば、学ぶ側の学生が教員と相談しながら自分の目標と学び方を決め、自ら目標を達成することで単位を認定する方法があってもよいのではないか、と思っています。もっとも大事なことは、個々の学生が「学び得ている」ことです。目標とした力をつけていると実感し、その充実を自信に繋げて欲しいです。そのためには、大学設置基準も、教員の考え方も、変えていかねばなりません。「どう変わるか」ではなく「どう変えるか」の意思が大切です。

 

 

・任期最後の一年間はまさにコロナ禍となってしまったが、思い描いていた最後の一年を全うできたか。

 

 未来を「思い描く」ことはしません。現実世界は何が起こるか分からないので、予想はしません。大事なことは予想することではなく、常にあるべき世界を考え続けることと、その思考を鍛え、どう変えるかを考えることです。それがあれば、予想外のことが起こっても、どの方向へ舵を切るべきか、わかるからです。

 また、大学という組織は総長個人のみが思い描くべき対象ではありません。学生はもちろんのこと、教員たち、職員たち、学部長会議を構成する学部長たち、そして常務理事兼副学長とともに、その時代の社会や世界が目指す理想と向き合うことが必要です。個人として全うしたか、しなかったか、考えていません。全力を尽くしましたが、できたこともあり、できなかったこともあります。法政大学のような大規模大学では、長期ビジョンをアクション・プランや中期経営計画に落とし込んだ項目そのものが膨大なのです。それらを詳細な項目別の表やルーブリックにして、達成度を書き込んであります。これは、達成されなかった事柄をそこでやめないで、次に引き継いでいくためです。総長の仕事は、前の総長からバトンを渡され、自分ができる精一杯のことを行なって、次の総長に引き渡すことです。

 

・自身の任期中の活動に点数をつけるとすれば 100 点中何点か。またそれはなぜか。

 

 長期ビジョンを策定したことが基礎になりました。しかし前の質問で答えたように、その達成度は、既に表に書き込んであります。SGU(スーパーグローバル創成支援)でも、多くの数値目標を掲げ、その達成度が詳細にわかっていて、チェックを受けています。そのように客観的で具体的な達成状況を把握することが重要なのであって、主観的に自分に点数を付けようとは思いません。また、日々の仕事は一人で行なっているのではなく、協働して行なっており、総長に限定される仕事でも、秘書や総長室長やその他多くの職員に助けてもらっています。自分一人でやっているとは思っていません。仕事の質についても、必ず周囲にチェックしてもらいました。個人的には力を尽くした、としか言いようがありませんが、努力に点数はつけられません。

 

・廣瀬克哉総長に期待することは何か。

 ともに策定し実行してきた長期ビジョンHOSEI2030を、引き続き実行してくださること。新たな大学にふさわしい仕組みを作って行ってくださること。卒業生、在学生、教職員の知性を広い社会に向かってつなげてくださること、です。全て、廣瀬総長ならおできになります。

 

・新入生・在学生に対してのメッセージ

 

 大学は変化の時代を迎えています。その変化は、世界の変化ともつながっています。何がどう変わっていくのかをよく見つめ、その中で面白いと思うことができ、夢中になって追求できることをぜひ見つけてください。

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